管理栄養士国家試験は、管理栄養士として必要な知識および技能について、その理解の程度を的確に評価するために行われるものであり、昭和62年度に第1回の国家試験が実施されて以来、毎年継続的に実施されており、管理栄養士としての質を確保するために重要な役割を担ってきたところである。
近年の生活習慣病の増加など国民の健康課題、少子高齢化社会に対応した管理栄養士が求められ、保護・医療サービスの担い手として、その役割を十分に発揮するためには、高度な専門知識および技能が必要であることから、栄養士法の一部を改正する法律(平成12年法律第38号)が平成14年4月に施行され、新たなカリキュラムに基づいた管理栄養士の養成が開始された。
これらの改善事項および出題基準は、平成17年度から行われる改正後の栄養士法に基づく国家試験から適用することが適当である。
人間や生活についての理解を深めるとともに、社会や環境が人間の健康をどう規定し左右するか、あるいは人間の健康を保持増進するための社会や環境はどうあるべきかなど社会や環境と健康の関わりについて理解する。
専門基礎分野である「社会・環境と健康」では、健康とは何か、そして人間の健康を規定する要因として幅広く社会・環境を理解し、主として集団を対象とした健康の維持・増進プログラムを実践するために必要な知識や技能を問う構成としている。
社会環境等の変化により、私たちの生活行動も変化し、それによって健康や疾患の状況が大きく変わりつつある中で、健康に対する考え方や価値観も多様化している。そのような中で、管理栄養士においては、個人および社会にとっての健康課題を明確化し、適切にアセスメントするための理論や方法を身につける事が求められる。
そこで、必須事項として、健康の概念、公衆衛生の概念、環境衛生、健康へ影響を及ぼす生活習慣(ライフスタイル)に関する事を大項目としてとりあげる。
また、疫学の原理と方法、科学的根拠(エビデンス)に基づく保健対策も必須事項と考えられる。
現在のわが国においては、少子高齢化の中で生活習慣病による疾病負担がますます大きくなってきており、それらに対する一次予防を効果的に行うことは管理栄養士の果たすべき大きな役割である。
個人や社会における生活習慣の変容を促すための技法として、行動科学の基礎的事項については、「栄養教育論」との関連で問う。
また、疾病予防やヘルスプロモーションを地域社会等において展開する際には、保健・医療・福祉・介護制度や関連法規に関する知識が必要であり、さらには保健統計資料の活用、情報化社会におけるコミュニケーションに関わることも必要である。なお、生活習慣(ライフスタイル)の中で、栄養・食生活は「公衆栄養学」で、身体活動・運動は「応用栄養学」で主として出題する事とする。
食品の各種成分を理解する。また、食品の生育・生産から、加工・調理を経て、人に摂取されるまでの過程について学び、人体に対しての栄養面や安全面等への影響や評価を理解する。
専門科目における学習内容を効果的に修得し、実践に向かうより高度な応用力を身に付けるために、基本的な食品ならびに食品の持つさまざまな情報について理解している事が求められる。
それゆえ、専門基礎科目である「食べ物と健康」では、その基礎となる食に関する基礎概念と知識・技能に関する事項を評価することを出題のねらいとする。
食品に含まれる各種成分の化学構造ならびに物性、その栄養素供給源としての働きや健康に対する働きかけ(食品の機能性)について理解できているかを問う。食品の生産から加工・調理を経て、人に摂取されるまでの一連の過程および人体に対しての栄養面や安全面等への影響に関する項目について出題する。
また、管理栄養士の実践活動としての表現形である食事設計の基本について、栄養素補給、嗜好特性、安全性、合理性の向上という諸側面を理解しているかを評価する。いわゆる「健康食品」の有効性・安全性については、科学的根拠に基づいて対応できることが管理栄養士に期待されることから、少なくとも、その重要な用語とその概要を理解していなくてはならない。
さらに、食生活の基盤を支える食品の安全性について、その重要性と安全性確保の方法、衛生管理の方法などについて知識を問う内容とした。
栄養とは何か、その意義について理解する。
健康の保持・増進、疾病の予防・治療における栄養の役割を理解し、エネルギー、栄養素の代謝とその生理的意義を理解する。
「基礎栄養学」では、栄養の基本的概念およびその意義を理解するとともに、健康の保持・増進、疾病の予防・治療における栄養の役割を理解し、エネルギーおよび栄養素の代謝とその生理的意義を理解しておくことが求められる。
そのためには、人間の個体レベルでの栄養現象を、摂取した食品の栄養成分が生体の構成成分としての栄養素へ代謝変換され、さらに臓器間の連携によって体内で栄養素相互の変換が行われるという一連の栄養代謝の全体像として捉えることが重要である。
この視点に立って、まず、栄養と健康および疾患とのかかわり、栄養と食生活の関係、および栄養学の歴史的背景から栄養の意義を問う。次に、栄養素の機能について理解を深めるために、栄養素の生理的作用、体構成成分としてのエネルギー源などの役割、栄養素の体内相互変換およびその機能性について理解しているかを問うこととする。
さらに、個体の栄養状態に適合した栄養マネジメントを行うためには、生活活動や生活のリズムにより食欲が大きく変化することを考慮することが重要であり、食物の摂取をタイミングよく行うことにより、栄養成分の消化・吸収ならびに生物学的利用度(生物学的有効性、bioavailability)が変化するという考え方も重要である。そこで、摂食行動から消化・吸収および栄養素の体内運搬までを体系づけ、これらの基本的な概念の理解を問うこととする。
個体におけるエネルギー代謝および栄養素の代謝とその生理的意義を理解するために、代謝における各臓器の特徴や臓器間の連係に焦点をあてながら、細胞から器官のレベルでの代謝の全体像を把握できるように体系づけて出題することとする。特に、糖質、脂質、蛋白質の代謝については、食事との関わりの中で具体的な状況を想定して理解することがきわめて重要になるので、食後と食間期の代謝の違いとそれに伴って起こる代謝調節の全体像が十分に把握できているかを問うことにする。ビタミン、無機質(ミネラル)および水分・電解質については、栄養学的な機能および作用機構の面から体系的に理解できているかを問う。
サプリメントとしてビタミンおよび無機質を摂取する場合に特に問題となる過剰摂取の危険性についても出題することとする。
また、生体反応の個人差を理解するために、個人の遺伝素因を理解しておく必要がある。特に、生活習慣病の発症には多くの遺伝素因が関わり合っているので、個別の栄養教育・指導を行う際にも遺伝素因の理解は不可欠である。そこで、栄養現象と遺伝素因との相互作用を問うこととする。 なお、生化学(大項目2および3)は、管理栄養士養成課程における教育にあっては、栄養学の理解の観点から「基礎栄養学」に組み込まれていると考えられるが、出題範囲としては「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」を主な出題領域としている。
身体状況や栄養状態に応じた栄養管理の考え方を理解する。
妊娠や発育、加齢など人体の構造や機能の変化に伴う栄養状態等の変化について十分に理解することにより、栄養状態の評価・判定(栄養アセスメント)の基本的考え方を修得する。また、健康増進、疾病予防に寄与する栄養素の機能等を理解し、健康への影響に関するリスク管理の基本的考え方や方法について理解する。
「応用栄養学」では、管理栄養士の専門職業人として基本的な知識・技能である身体状況や栄養状態に応じた栄養マネジメント(栄養管理)の考え方を理解することが求められる。
栄養マネジメントの基本は、すなわち、栄養アセスメント、計画、実施、モニタリング、評価(evaluation)、フィードバックの過程は、この「応用栄養学」で出題することとする。「栄養教育論」「臨床栄養学」「公衆栄養学」においては、それぞれの専門分野に特異的な栄養マネジメントの展開について問うこととする。
成長・発達、加齢(老化)に伴う生理的変化、妊娠、授乳期の生理的特徴を理解しているか、各ライフステージに応じた栄養アセスメントを行えるか、栄養関連の病態・疾患の概要を知っているか、栄養ケアの在り方を理解しているかを問う。
エネルギー・栄養素必要量(要求量)を決定するための科学的根拠を修得しているかについては、「応用栄養学」で出題する。しかし、これを応用して食事摂取基準(Dietary Reference Intakes = DRIs)を策定し、DRIsを栄養実践活動に活用することについては、「公衆栄養学」の出題領域とする。
運動・スポーツ時の栄養・代謝、運動・スポーツの健康・体力への影響、トレーニング時の栄養補給法等について、また、ストレスや特殊環境下における栄養・代謝についても「応用栄養学」で出題する。
健康・栄養状態、食行動、食環境等に関する情報の収集・分析、それらを総合的に評価・判定する能力を養う。
また対象に応じた栄養教育プログラムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントできるよう健康や生活の質(QOL)の向上につながる主体的な実践力形成の支援に必要な健康・栄養教育の理論と方法を修得する。
特に行動科学やカウンセリングなどの理論と応用については演習・実習を活用して学ぶ。
さらに身体的、精神的、社会的状況等ライフステージ、ライフスタイルに応じた栄養教育のあり方、方法について修得する。
栄養教育論の概念では、定義、歴史、目的、目標、対象、場、法的根拠を明確に理解しているかどうかを問いたい。食行動変容のためには、行動科学の理解と技法の応用が必須である。個人を対象とした栄養教育にはカウンセリングの理論と技法を応用することが多い。行動科学とカウンセリングを栄養教育へ応用できるかを問うこととする。
栄養教育に特異的な栄養マネジメント、すなわち栄養教育のためのアセスメント、カリキュラムの立案、実施、モニタリング、評価、フィードバックに関する出題を行う。特に、学習形態、教材、媒体については、専門的な内容について出題することとする。ライフステージ別栄養教育が実際に実施できるか、その知識と技能を問う。食環境づくりにおける栄養教育、先進諸国と開発途上国における栄養教育についても出題する。管理栄養士が栄養教育を臨床栄養や公衆栄養の場で応用できるか、あるいは、管理栄養士がこれらの場でリーダーシップを取り、他の職種の人々と連携してチームを組織し、栄養教育を展開できるかを評価する。
傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいて、適切な栄養管理(栄養マネジメント)を行うために、栄養ケアプランの作成、実施、評価に関する総合的なマネジメントの考え方を理解し、具体的な栄養状態の評価・判定(栄養アセスメント)、栄養補給、栄養教育、食品と医薬品の相互作用について修得する。
特に各種計測による評価・判定方法やベッドサイドの栄養指導などについては実習を活用して学ぶ。
また医療・介護制度やチーム医療における役割について理解する。
さらにライフステージ別、各種疾患別に身体状況(口腔状態を含む)や栄養状態に応じた具体的な栄養管理方法について修得する。
「臨床栄養学」では、傷病者を対象とした栄養マネジメントについて学ぶが、傷病者の心身について十分に理解を深めておくと同時に、医療に従事する者としての心構えや医療制度等を修得しておくことが必要である。また、傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいて、適切な栄養マネジメントができる実践能力が必要である。
栄養マネジメント、すなわち傷病者の栄養アセスメント(栄養スクリーニングを含む)、栄養ケアの計画と実施、食事療法および栄養補給方法、傷病者の栄養教育、モニタリングと再評価、薬と栄養・食物の相互作用、栄養ケアの記録に関する理解を評価する。「臨床栄養学」では、これらを最も重視して出題する。
また、疾患・病態別、ライフステージ別にその生理的特徴や栄養代謝の異常を理解した上で、適切な食事療法・栄養補給や栄養教育による栄養ケアのあり方や具体的方法が理解されているかを評価する内容とした。
しかし、「社会保険・老人保健診療報酬医科点数表」の「外来・入院栄養食事指導料」、「集団栄養食事指導料」「在宅・患者訪問栄養食事指導料」等に記載されている疾患については、その疾患に特異的な栄養ケアについて出題するが、原則として疾患・病態別栄養ケア(《 》がつけられているもの)は、栄養マネジメントの知識と技能を応用できるか否かに焦点を絞って問うこととする。
地域や職域等の健康・栄養問題とそれを取り巻く自然、社会、経済、文化的要因に関する情報を収集・分析し、それらを総合的に評価・判定する能力を養う。また、保健・医療・福祉・介護システムの中で、栄養上のハイリスク集団の特定とともにあらゆる健康・栄養状態の者に対し適切な栄養関連サービスを提供するプログラムの作成・実施・評価の総合的なマネジメントに必要な理論と方法を修得する。
さらに各種サービスやプログラムの調整、人的資源など社会的資源の活用、栄養情報の管理、コミュニケーションの管理などの仕組みについて理解する。
「公衆栄養学」では、集団の栄養問題あるいはニーズを把握し、適切な公衆栄養プログラムを計画・実施・モニタリング・評価・フィードバックするための知識と技能を問う構成としている。
第一に、公衆栄養マネジメントの概念、既存の理論的枠組み・コミュニケーション理論を理解し、それらを使って公衆栄養マネジメントの枠組みを組み立てることができるかを問う。
第二に、公衆栄養プログラムの計画策定・実施する手法や技能を問うとともに、具体的な公衆栄養プログラムについての理解を問う。
第三に、公衆栄養学の基本となる、栄養疫学では、食事摂取量の測定方法、特に食事調査法を重視して出題する。
さらに栄養疫学的アセスメントを理解している、栄養問題と健康問題の把握方法を理解し、それらを公衆栄養プログラムの策定に際して具体的に活用できるかを問う。
第四に、公衆栄養プログラムを評価するための指標、情報収集の方法、目標達成状況の検証方法を理解し、それらを活用できるかを問う。
さらに、わが国および諸外国の健康・栄養問題の現状、課題およびそれらに対応した栄養政策についての理解、食事摂取基準(DRIs)の概念および活用の理解、「日本人の栄養所要量(食事摂取基準)」の概略については、「公衆栄養学」において問うこととする。
給食運営や関連の資源(食品流通や食品開発の状況、給食に関わる組織や経費等)を総合的に判断し、栄養面、安全面、経済面全般のマネジメントを行う能力を養う。マーケティングの原理や応用を理解するとともに、組織管理などのマネジメントの基本的な考え方や方法を修得する。
「給食経営管理論」では、管理栄養士業務のうち「特定多数人に対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の状況などに応じた特別の配慮を必要とする給食管理およびこれらの施設に対する栄養改善上必要な栄養指導等」を行うための基本的な知識と技能に関する内容を整理した。
基本的には「栄養・食事管理」と「経営管理」の2つの柱からなる。「栄養・食事管理」では、給食の対象となる人や特定集団を的確に把握した上で、具体的な栄養・食事管理を行うために計画・生産(調理)・サービスを行うための知識と技能が必要である。「経営管理」では、栄養・食事管理およびサービスを効率的かつ安全に運営するためのシステム構築とそのマネジメントを行うために、経営管理や生産管理の理論や手法を給食に応用展開する知識と技能が必要である。
この視点に立って、第一に管理栄養士に求められる給食の経営管理(マネジメント)の基本、品質管理の基本の理解を問う構成とした。会計・原価管理についても出題する。
第二に栄養・食事管理の基本と栄養・食事計画の上で、対象とする人や集団に応じた健康・栄養政策や制度を活用するための能力をみる。
第三に給食経営の資源となる「人」・「物」・「お金」・「情報」の視点を出題する。
第四に管理者に求められる事故や災害時を想定した準備や対策について問うこととし、さらに、保健・医療・福祉領域の場で実施されている各種の給食において、「栄養・食事管理」および「経営管理」を応用展開するための総合的な能力およびその実施状況について必要な指導や助言をする能力を問う内容とする。
人体の構造や機能を系統的に理解する。
主要疾患の成因、病態、診断、治療等を理解する。
専門基礎分野のひとつである「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」は、端的にいうと、管理栄養士にとっての「医学入門」である。医学は、基礎医学(解剖学、生理学、生化学)と臨床医学(内科学、外科学)というように縦割りに分類されてきたが、実務家(practitioner)としての管理栄養士にとっては、人間の全体像を把握する、いわば分野横断的に人間を理解しておくことが望ましい。このような観点から、器官別に、形態、機能、そして主要疾患の成因・病態・診断・治療の概要を理解できているかを問うこととする。
また、生理的・病理的変化が全身に及ぶと考えられる個体の調節機能と恒常性、生殖・発生・成長・発達、加齢と死、感染、免疫と生体防御、悪性腫瘍等についても、その機構と関連疾患とを系統的に理解できているかを問う。しかし、疾患については、「重要医学用語の理解」程度の出題にとどめる。疾患の診断法、治療法の概要を理解しておくことも、「臨床栄養学」の実践活動にとって重要であると考えられる。
管理栄養士養成課程では、遺伝学、有機化学、生化学、生理学、微生物学、薬理学、病理学等の基礎(入門レベル)もコアカリキュラムに組み込まれていると考えられるが、その中で、生化学は、管理栄養士にとって最も重視すべき基礎科学である。そこで、生化学を「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」の出題範囲に入れることとする。